ボールのキャリーとランを科学的に分析
ボールのキャリーとランを科学的に分析
ヘッドスピードによるボールと飛距離の理論
ボールのキャリーとランの関係
ボールの飛距離は科学的にいうとスイング中のインパクトによってクラブヘッドの運動エネルギーがボールに伝えられ飛び出し、ボールに与えられた運動エネルギーが消耗する要素として次の2つが考えられます。
飛行中の空気抵抗と芝の抵抗
飛距離を稼ぐには、これらの抵抗をできる限り少なくすることになりますが、現実問題として空気抵抗が芝による抵抗より少ないことは明白です。
つまり、キャリーを稼ぐにが最大の飛距離を生むといえます。
図1をご覧ください。
この図はドライバーとヘッドスピード36m秒と45m秒でスイングする人のロフトを変えながらキャリーとランを求めたグラフになります。
キャリーを見るとヘッドスピードが35m秒の場合ロフト15度前後が最大点があることがわかります。一方、ヘッドスピードが45m秒の場合は9~10度付近にあることがわかります。
このことで、プロやアマチュアのハードヒッターにはロフトが10度以下が最も適したロフであること、また40m秒以下の非力な女性やシニアの方にはロフトのあるドライバーの方が最大のキャリーを得られることがわかります。
ロフトとランの関係
しかし、ランに注目すると、ランによる距離はほとんどヘッドスピードに関係なく、むしろランの距離はロフトに大きく関係していることがわかります。
大きなランを求めるには、弾道が低くバックスピンの量も少ない方が効率が良く小さなロフト角、つまり垂直に近い立ったロフトが適している事になります。
これは次の図からも明白です。
ボールの突入角度を見れば理解できます。ロフトの小さいドラーバーによって打たれたボールの弾道は、その高さが低く従って非力な人のキャリーは少ない弾道でも地面への突入角度が小さく、ボールの速度の水平成分は大きい。
これに対して、ボールの初速度の速いプロの弾道は同じロフトのドライバーを用いても揚力が大きく、その弾道は高い。
従って、地面への突入角度がは大きく、突入速度の水平成分は小さくなり、非力な人と変わらないことになります。
これが同じロフトである限り、プロもアマチュアゴルファーのボールも変わらないランを示す原因になります。
この様に見てみるとランが欲しいときはロフトの小さいクラブを使用すれば良いことがわかります。
だがその場合非力なゴルファーはキャリーが少なく、トータル的には飛距離は望めない事になります。
ランはその日の、コースコンデション、つまり着地地点の地面の状態が大きく影響するので、飛距離はやはり大きなキャリーを狙うことの方が有利になります。
実際の経験に即しても、プロの試合を観戦していても、飛ばし屋のボールはその弾道が高く、低い弾道ではより多くの飛距離は望めないことになります。
飛距離と打ち出し角度
次の下の図に示す軌道は大気の影響のない真空状態での打球の球筋になります。
この状況下であればヘッドスピード、反発係数、打ち出し角度が明確であれば飛距離は以下の様に計算できます。
Vo:ボールの初速度(m/sec) θo:ボールの打ち出し角度(度) g:重力加速度(9.8m/sec2)
とすると
水平方向速度(Vx)=Vo Cos θ(m) 対空時間 (t) =2Vo Sin θ/g(sec)
飛距離=Vo t Sin θ^gt二乗/2
で表示できます。
ここで最大の飛距離を発生させるためには、打ち出し角度を小さくして、滞空時間を長くするには(θo)を大きくしなければならない。
従って、この両方が最大値になる交点のθoを求めれば最大の飛距離を得る事が出来る。つまり真空状態では45度の打ち出し角度がベストになります。
しかし、地球は大気によって覆われ、また無風状態でゴルフすることはまれです。このため、大気の抵抗から免れることはできません。
従って、上記の様な単純な計算式で飛距離を予測する事は不可能で、飛距離を伸ばすにはさらに多くの条件が含めれきます。
これらの条件は、ボールのスピンとロフトの関係になってきます。
ボールのスピン量
19世紀後半から20世紀にかけてゴルフ発祥の地セントアンドリュースの近いエジンバラ大学の物理学者ティト教授とケンブリッジ大学のトムソン教授(電子の発見で1906年ノーベル物理学賞を受賞)らは共にゴルフの物理に関する先駆的な研究を行いました。
彼らは本業に傑出した業績を残しながらゴルフボールの弾道について「揚力が発生してさらにボールを運んでいくのは何かの原理があるい違いない」と流体力学的な考察を深めていきました。
図1参照
そして、この揚力の発生のもとはボールのスピン量にあり、しかもそれは飛行方向に逆に回転するバックスピンであると結論づけました。
しかしながら、クラブヘッドから打たれたボールがどの程度バックスピンがかかるか、予測できる理論はいまだ不明確な状態が現実です。
ティト教授はスコアーラインによってバックスピンが増大する実験を行っているが、現在のボールでは1分間に1万回の回転数のバックスピンを発生させるショートアイアンを用いて、しかもボールが濡れていない状態でなければスコアーラインの効果は得られないとされています。
バックスピンの量を増やしたからと言って、必ずしも飛ぶとは言えません。
揚力がボールの弾道に垂直に働くとすると、垂直方法と水平方向成分を持つことがわかります。
ボールの上昇中は水平方向の分力はボールの進行方向に逆に向いており、これは抵抗力として働きます。
向かい風でボールが吹きあがて飛距離がでないのはボールの速度に風の速度が足される結果の過大な揚力のためです。
逆に追い風の場合、一般的には風に乗って飛ぶ場合が多いが、空気中におけるボールの相対速度が減少することで揚力が不足してドロップしてしまうことです。
つまり揚力は適正な量が必要になり、いずれにせよ十分は揚力特性を持った現在のボールを使用する限りスピン量の増大が飛距離増大に必ずしも結びつかないという事になります。
ロフト角θを持ったクラブがボールをインパクトする時のヘッドスピードの分析です。
クラブでボールを打つとフェースにボールのデンプルパターが残ることがあります。
つまり、少なくともインパクト中にボールとフェースが密着した瞬間があったという証拠になります。
つまり、フェース面に平行な成分Vo Sinθ によってボールはスリップすることなく回転していたことになります。
ボールの半径をrとして、この速度でボールが回転していたとなると、その回転数は次のようになります。
スピン回転数=ヘッド速度のフェース面に平行な成分 ÷ ボールの外周
N=Vo Sin θ / 2 πr
ここでθはクラブのロフトで、Nはボールの1秒間のおける回転数になります。この計算式を使用してロフトの異なるドライバーと7番アイアンを例にして計算した表になります。
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ボールの質の違いで起こるスピン量の関係
また、ボールには糸巻きボールとツーピースボールがあり、ツーピースボールの方が糸巻きボールより6~7%慣性モーメントが大きくなります。
ボールに与える力が同じでもこの慣性モーメントの違いによりスピン量の差となりあらわれます。
ボールの重量はルールで制限されており、大きさは直径1.68インチ以上で、重さは上限1.62オンス(45.93g)ですがツーピースボールは構造的に均一ですが、糸巻きボールの場合のようにセンター・コアに重い物は使用していないためツーピースボールの方が、慣性モーメントが大きくなりスピン量も少なくなるのです。
ドライバーのようにヘッドスピードが速くロフトが小さいときはヘッドスピードの割にはスピン量は小さい。この場合、ボールの外皮の硬さよりボール全体の慣性モーメントがスピン特性を支配します。
慣性モーメントの大きいツーピースボールは糸巻きボールよりスピン量が少ないためドライバーやユテリテーなどのロフトの小さいクラブで打つ場合、ツーピースボールが糸巻きボールより大きく距離を稼ぐことができます。しかしショートアイアンのように、飛距離よりも距離の正確さを要求されるときは、ランが返って有害になります。
その場合、ボールに大きなスピン量が必要になるためボール外皮とクラブヘッドの表面素材が軟らかいかが影響してきます。
結果、ツーピースであれ糸巻きボールであれ、表面素材の軟らかいものは、スピン量が多くなるのです。
以下の表はツーピースボールのショートアイアンによる毎分回転数を示しています。
以上のようにドライバーのように飛距離を望むクラブはスピン量を少なくし、ショートアイアンのような距離の正確さが必要な時にはスピン量の多いボールが良いということになります。
この要求は一見矛盾しているように見えますが、慣性モーメントを大きくして表面材料の軟らかいものを用いると、要求されるボールが打ちやすくなるため最近のボールはこのような傾向に生産されています。
ゴルフボールに関するルールでは、サイズ、重量、対称性、反発特性には規制されていますが、慣性モーメントについては触れられておらず、今後は慣性モーメントを最適化するボールの開発がされていくと思われます。事実スリーピースボールの出現はこの様な理由からです。
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